マンション売却の際は儲かった売却代金がそのまま手元に残るわけではなく、さまざまな税金や費用がかかります。
マンション売却で高額になりやすい税金の1つに譲渡所得税がありますが、特例を利用できるケースがほとんどのため、納める税金額を抑えるのに効果的です。
この記事では、マンション売却で税金(譲渡所得税)がかからないケースや譲渡所得税の計算方法、利用できる特例・控除などを紹介します。
マンション売却で譲渡所得税(税金)がかからないケース
冒頭でもお伝えしたとおりマンション売却で高額になりやすい譲渡所得税(税金)は、売却益がなければ課税されません。
また、特例の利用によって税金がかからないケースが少なくありません。ここでは、2つのケースに分けて譲渡所得税(税金)がかからないケースを紹介します。
譲渡所得税(税金)がかからないケース①売却して利益が出なかった場合
マンション売却で売却益が発生しなければ、高額になりやすい譲渡所得税(税金)はかからないのが一般的です。そこで、譲渡所得税(税金)の計算式を見てみましょう。
譲渡所得=売却価格ー(取得費+譲渡費用)
売却価格はマンション売却で得た金額のことです。
取得費は、マンション購入費用から減価償却費を控除した金額やその当時支払った仲介手数料、登記費用などが該当します。購入費用が不明の場合、概算取得費を用いて売却価格の5%を計上します。
譲渡費用はマンション売却にかかった費用で、仲介手数料や印紙税などが該当します。抵当権抹消費用や司法書士への報酬、引越し費用などは含まれないため注意が必要です。
例えば、売却価格が3,000万円、取得費が2,800万円、譲渡費用が200万円の場合は3,000万円ー(2,800万円+200万円)=0円となり、税金がかかりません。
譲渡所得税(税金)がかからないケース②特例・控除を利用した場合
マンション売却で特例・控除を利用すれば税金がかからない可能性があります。マンション売却で利用できる特例・控除には、次のようなものが挙げられます。以下を利用する際は確定申告が必要です。
- 居住用財産の3,000万円特別控除
- 軽減税率の特例
- 居住用財産の買い換え特例
- 損益通算及び繰越控除の特例
居住用財産の3,000万円特別控除
居住用財産の3,000万円特別控除は、マンション売却時に一定要件を満たすことで、譲渡所得から3,000万円まで控除できる制度です。この制度の利用によって納税額をゼロ、あるいは大幅に軽減できます。
軽減税率の特例
軽減税率の特例は所有期間が10年を超えている場合、6,000万円までの売却益に軽減税率として14.21%が適用できる制度です。
居住用財産の買い換え特例
特定の居住用財産の買換えの特例は、売却益が生じても税金はかからず、住み替え先の物件を売却するまで先送りにできる制度です。
損益通算及び繰越控除の特例
損益通算及び繰越控除の特例は、マンション売却時に生じた売却損(赤字)を、給与所得や不動産所得などの他の所得と相殺して黒字にしたり、相殺できなかった部分を翌年以降の3年間繰り越したりする制度です。
上記のほかにも利用できる特例・控除はいくつかあるため、売却するマンションに利用条件が当てはまるか事前に確認しておきましょう。
マンション売却でかかる税金
マンション売却では売却益が生じた場合に譲渡所得税がかかりますが、売却益に関係なく必ずかかる税金が存在します。ここでは、3つの税金を解説します。
印紙税
印紙税とは、印紙税法で定められた一定の課税文書に対して課される税金です。マンション売却時の売買契約書も印紙税の課税対象であり、契約書には税額分の収入印紙を貼付する必要があります。
納める税金額はマンション売却時の売買契約書に記載された売買価格によって異なり、2024年3月31日までに作成された契約書は軽減措置が適用されます。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
500万円超え1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超え5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超え1億以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円超5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
登録免許税
マンション売却時に抵当権が残っている場合は、登録免許税という税金がかかります。
抵当権とは、住宅ローンの返済が滞った場合に、債権者である金融機関が不動産を競売(けいばい)にかけ、ローン残債を回収できる権利です。
抵当権抹消にかかる登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。マンションの場合は、土地と建物とで2,000円かかることになります。
なお、抵当権抹消登記は司法書士に依頼するのが一般的であり、司法書士報酬は1〜3万円が目安です。
消費税
マンション売却において、仲介手数料や司法書士報酬、住宅ローンの返済費用などに消費税がかかります。
また、事業者が事業として賃貸マンションや投資用マンションを売却する場合は、建物部分に消費税がかかります。
以下の表では、高額になりやすい仲介手数料の計算式をまとめました。
マンション売却価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 売却価格×5%(+消費税) |
200万円超から400万円以下 | 売却価格×4%+2万円(+消費税) |
400万円超 | 売却価格×3%+6万円(+消費税) |
主な特例・控除
ここでは、マンション売却において税金を抑えられる4つの特例・控除を紹介するので参考にしてください。
居住用財産の3,000万円特別控除
居住用財産の3,000万円特別控除とは、マンション売却時に一定要件を満たすことで、譲渡所得から3,000万円まで控除できる制度です。
3,000万円の売却益が生じることはほとんどないため、この制度の利用によって納める税金額をゼロにできます。
主な要件は以下のとおりです。
- 売却したマンションが居住用であること
- 居住しなくなってから3年後の12月31日までにマンション売却していること
- マンション売却した年から前々年までの間に、特例・控除を適用されていないこと
- 売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
なお、後述する軽減税率の特例との併用は可能ですが、住宅ローン控除とは併用できません。マンション売却後に新居を購入する場合、特例利用と住宅ローン控除のどちらがお得かを確認しておきましょう。
軽減税率の特例
軽減税率の特例は、マンション売却において所有期間が10年を超えている場合に、譲渡所得に軽減税率が適用できる特例です。
譲渡所得がプラスになった場合はマンションの所有期間が5年超かどうかで、短期譲渡所得の場合に39.63%、長期譲渡所得の場合に20.315%の税率がかかります。
しかし、この特例を利用すると6,000万円を差し引いた部分まで税率が14.21%の対象です。6,000万円を超えると税率は20.315%になります。
主な要件は以下のとおりです。
- 売却したマンションが、居住用であること
- 売却したマンションの所有期間が売却した年の1月1日現在において10年を超えていること
- マンション売却した年から前々年までの間に、特例・控除を適用されていないこと
- 売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
特定の居住用財産の買換えの特例
特定の居住用財産の買換えの特例とは、売却益が生じても税金はかからず、住み替え先の物件を売却するまで先送りにできる制度です。
売却価格よりも買い換えた物件の購入費用が高くなる場合に適用を受ける傾向にあります。納めるべき税金が免除されるわけではないため、気をつけましょう。
特例を利用する際の要件は、住み替え先の物件と売却するマンションでそれぞれ決まっています。詳しくは売却を依頼する不動産会社や税務署で確認しておきましょう。
主な要件は以下のとおりです。
- 売却価格が1億円以下
- 売却したマンションの所有期間が10年を超えていること
- マンション売却した年から前々年までの間に、特例・控除を適用されていないこと
- 住み替え先の物件の床面積が50㎡以上、500㎡以下であること
損益通算及び繰越控除の特例
損益通算及び繰越控除の特例は、マンション売却時に生じた売却損(赤字)を、給与所得や不動産所得などの他の所得と相殺して黒字にしたり、相殺できなかった部分を翌年の3年間繰り越したりする制度です。
売却損が生じた場合は、そもそも税金はかかりません。この制度では、通常は他の所得と相殺できないところを、要件を満たすことで可能になることが特徴です。損益通算の特例は主に以下の2種類が挙げられます。
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
以下の表で適用条件を簡単にまとめています。
特定居住用財産 | 買い換え等 | |
---|---|---|
マイホームの買い換え | 不要 | 必要 |
住宅ローン | 売却マンションに返済期間が残っているローンがあること | 新居をローンで購入し、返済期間は10年以上あること |
対象の売却損 | 次のうちの少ないほう「売却損全額or売却価格を差し引いたローン残高」 | 売却資産の売却損全額 |
譲渡所得税の計算をシミュレーション
ここでは、マンション売却で高額になりやすい税金である譲渡所得税の計算をシミュレーションします。
譲渡所得税の計算方法
実際にマンション売却の譲渡所得税の計算をする前に、計算式とその考え方を解説します。
- 譲渡所得=売却価格ー(取得費+譲渡費用)
- 譲渡所得税=譲渡所得×税率
※売却価格:マンション売却で得た金額
※取得費:マンション購入費用から減価償却費を控除した金額と仲介手数料や登記費用足した金額(不明の場合は概算取得費を用いる)
※譲渡費用:マンション売却にかかった仲介手数料や印紙税などの金額
譲渡所得の計算式から分かるように、マンション売却価格よりも取得費や譲渡費用の金額が大きければ譲渡所得は低くなり、納める税金額を減らせます。譲渡所得がゼロになれば税金はかかりません。
売却益が生じた場合は、譲渡所得に税率を掛けて譲渡所得税(税金)を計算します。
税率はマンションの所有期間によって異なり、マンション売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得、所有期間が5年超の場合は長期譲渡所得が適用対象です。なお、所有期間が10年を超えた場合の税率は14.21%まで引き下がります。
譲渡所得の種類 | 所有期間 | 所得税率 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
軽減税率 | 10年超 | 14.21% |
取得費の計算方法
取得費は、マンションの購入費用のすべてが含まれるわけではありません。建物の取得費は、築年数の経過に応じて減価償却費を差し引く必要があります。建物取得費の計算式は以下のとおりです。
- 建物取得費=建物の購入価格ー減価償却費相当額
- 建物の購入価格×0.9×償却率×経過年数
償却率は建物の構造によって数値が異なり、マンション売却の場合は鉄筋・鉄骨コンクリート造で0.015になります。購入価格が不明の場合は概算取得費として売却価格×5%を計上するのが一般的です。
実際の譲渡所得税の計算をシミュレーション
- 売却価格:3,000万円
- 購入価格:2,000万円(建物1,200万円・土地800万円)
- 所有期間:30年
- 譲渡所得=売却価格ー(取得費+譲渡費用)
- 譲渡所得税=譲渡所得×税率
建物取得費は1,200万円であり、鉄筋・鉄骨コンクリート造の償却率は0.015のため、減価償却費は1,200万円×0.015×30年=540万円となります。
次に譲渡所得の概算です。
取得費:2,000万円ー540万円=1,460万円
譲渡費用(仲介手数料):3,000万円×3%+6万円+消費税=105万6,000円
譲渡所得:3,000万円ー1,460万円ー105万6,000円=約1,435万円
譲渡所得に関する特例・控除を利用しない場合の譲渡所得税は、1,435万円×20.315%=約291万5,000円です。3,000万円の特別控除を利用する場合、税金はかかりません。
まとめ
マンション売却で売却益が生じない場合や特例・控除を利用した場合は、譲渡所得税(税金)がかかりません。
税金がいくらか調べるためには計算式で算出する必要があり、実際に自分で行うのは難しいため、不動産会社や税務署に相談しましょう。